政治家で、岩手県知事選にも出馬した著者。知事選で落選後に手掛けたのが、本書のタイトルにもなっている「食べる通信」というWEBサービスでした。
この「食べる通信」では、農家の人と都市の消費者を結びつける。どういう風にして農作物・畜産物を作っているのか、とっているのかを記事にしつつ、食材も届く。
ストーリーを知って食べるということ。
本書では、「関係人口」というワードを使って、地方と都市の関係を述べています。この関係人口というのは、少し前に読んだこちらの本にも出てきました。
共通するのは、移住を目的とするのではなく、まず地方と関わってもらうというスタンスです。そのうえで移住が出てくればラッキーということになります。
著者が考える現代社会について
本書の面白いのは、「食べる通信」についての記載が少な目であるということ。実は、著者の現代社会への考察の方が大半をしめます。
結構、的を射ているところが多かったですので抜粋しておきます。
都市住民の虚無感
- 仕事が細分化され自分が駒のように感じてしまう「存在意義喪失型」
- パソコンの前での仕事で実体に触れずに何をやっているのかわからなくなる「やりがい喪失型」
- 自分の仕事は自然や他者を搾取したうえで成り立っていることに気づき後ろめたさを感じる「正義希求型」
いずれも豊かさがもらたした成人病である。
よくまとまっています。自分自身なんとなく感じていた都市生活の不安要因はこういうことですね。
自立とは多様な依存先があること
ある障害者の言葉として紹介しています。都市生活では、コミュニティが希薄になり、都度都度の関係で成り立っています。自己防衛のために、関係を切ることができるようにもしている。これは人間関係ですら消費するものということと著者はしています。
一方は、人間は社会的な動物と言われるように、他者との関係を求めるものでもあり、顔の見える関係を欲している。それが2枚目の名刺を持って活動することにつながっているとしています。
子どもが欲しくない理由は、「子育て・教育で出費がかさむ」よりも男性では「感じていることは特にない」女性では「自分の自由な時間がもてなくなる」が上回っている。子どもに興味がない、子どもにかける時間とお金があれば自分にかけたい、つまり、子どもを産み育てることの価値が昔に比べて下がり、そうした生き方が社会に許容されつつあるということだ。そしてこの数字の裏には、自分たちの思い通りにならないものへの拒絶、敬遠があると私は思うのだ。
この考察を読めただけでも本書を読んだ価値があります。少子化はずっと続く大問題ですが、こういう見地は初めて接しました。妻にいうと確かに、と納得していました。
自然(社会もですが)は、人智を超えた思い通りにならないものだらけです。それがわかって接するれば、子育ても楽になるのではないかなぁと思っています。
食を通じてみる、現代社会の問題点の考察エッセイだとおもえる本でした。
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