好きな作家の一人である沢木耕太郎。エッセイやルポが面白いなのだが、こちらは小説。
時は香港返還にわく20世紀の終わり。主人公、伊津航平がバリ帰りに立ち寄ったマカオ。当時のマカオはまだアメリカの外資も入っておらずカジノといったらリスボア。そんなリスボアのカジノでバカラというものに囚われていく……。
様々な伏線があり、取り巻く人間像があり、人生哲学のようなもの、そして興奮のあとの清涼なエンディング。
序盤はバカラのルールや賽の目についての記述が多く慣れませんでした、中盤からは人間関係や哲学的要素も含まれ睡眠時間を削ってあっという間に読了しました。
特に主人公がもともとやっていたサーフィンで感じた波、そしてバカラという海での出目の波がリンクし始めたあとは、もう自分がこの小説の麻薬のようなものに取りつかれていました。それはギャンブル的なそれを同じようなものなのかもしれません。
そういえば、僕がマカオに行ったのは1999年だったかなぁ。その少し前が舞台ということで、当時のことをかすかに思い出しながら読ませていただきました。
現実を動かすことができるのは強く信じることができたときだけなんだ。
本書で書かれていた言葉です。強く信じる、それが正しいと信じて疑わないのであれば、実行することができますから。
博打、異国を題材に、少しのバイオレンスと恋愛と哲学が混ざった極上のエンタテイメント。そして著者の代表作「深夜特急」と同じく、果てをみたいという僕にも共通する人間の本能を堂々と描いた作品でした。