以前に読んだ「文明崩壊」「銃・病原菌・鉄」 のジャレイドダイアモンド大絶賛の人類史とでもいう一冊。歴史的見地ではなく生物学的・物理的・化学的に検証していきます。
全世界で絶賛の嵐というのがわかる読み応え十分の一冊でした。
(読書)文明崩壊/ジャレドダイアモンド - Life is a showtime
サピエンスだけがなぜ繁栄したのか
本書の根本にあるのは、人類は「虚構」を信じることができる動物であったということ。著者はこれを認知革命と称しています。
想像上のものを作り出し、共有できること。それが共同体をつくり、それが帝国をつくり、企業をつくり、宗教をつくり、貨幣を作り出しました。帝国や貨幣、宗教が人類に与えた影響は計り知れません。
すべての繁栄はこの「虚構」を信じる能力にかかっているということです。
農業革命・科学革命による影響
認知革命に続く、人類の特異点だったのが農業革命と科学革命であると著者は説きます。
一般的に農業革命は、人類を幸福にしたという風に語られます。しかし著者は狩猟から農業にかわったことで、未来への懸念が発生する不幸を招きます。貯蓄の概念の発生です。そして貯蓄の有無がヒエラルキーをうみ格差が発生しました。狩猟時代にはなかった概念の誕生です。現代的に言うとこれは不幸の発生ということになります。
ちなみに農業革命が中東・中国・中央アメリカで最初に発生したのは、家畜化・栽培化に適した種がこの地域にあったからということ。(これは、銃・病原菌・鉄でも述べられており目から鱗だったことを思い出します)
農業革命以降、歴史が進むと世界は統一に向かいます。いくつかの帝国の誕生です。世界の統一にむけて最強のツールとして紹介されているのが貨幣でした。貨幣自体も人類が持つ最大の特徴、虚構によってなりたっています。
貨幣はその昔は金本位制、いまは発行する国家の信頼(最大がアメリカ)がバックになりたった使用価値が少ない金や紙切れという虚構の上になりたっています。
続いて起こったのが科学革命です。科学の発展には大量の資本が必要になります。ヨーロッパ諸国が帝国になりえたのは、科学に大量の資本が投下され、科学の発展が帝国の拡大につながるということを発見したからというのが著者の解説です。科学と資本のフィードバックサイクルが機能することで、より豊かな未来が来るはずという現在に通ずる科学信仰の始まりです。
この未来はより豊かになるという信頼自体が、これまた人類の最大の特徴である虚構を信じることができるということの上に成り立っています。
未来について
本書では、最後の章で未来についての考察をおこなっています。人類は科学の進化でもはや神の領域に近づいています。つまり自然選択を超えつつあるということです。まぁ神自体が虚構というのも現実なのですが…。
科学の発展によって著者は3つの超ホモサピエンスの時代を予測しています。
一つ目は、生物工学によって生まれるもの。DNAについての解析がすすみ、さらに作り出すことができるようになり有機的なものであれば作り出せる未来の到来です。
二つ目は、サイボーグ工学の発展形です。現在でも眼鏡やペースメーカー、義手などがありますが、これらは人類の能力を補完しているものです。しかし脳とコンピューターがつながったら、それが共有できるようになったら…。知識や感情、考え方を共有することになり現在の生物学や社会学、宗教など越えた存在になるのではないでしょうか。
三つ目は非有機的生命工学によるものです。現在一番わかりやすいものはコンピューターウイルスということです。突然変異も起こすコンピューターウイルスはもはや生命に近いものでもあります。これがロボット的なものと結合したら…。
つまり、今までの生命の定義は有機物でしたが、有機物の発展形・有機物と無機物の結合・無機物の世界の3つを提示しています。
結びに「幸せ」について考察されています。現在、人類は科学が未来を明るくするという虚構に成り立っています。明るい未来は幸せだと誰もが共有できるものでした。
しかし「幸せ」とは実は身の内より宿るものです。これは化学的にいうとセロトニン、ドーパミン、オキシトシンの分泌ということです。つまりは自分がどう感じるかに過ぎないと。
人類は科学の発展で自分の欲望を操作できる日が近いかもしれない。そのとき「私たちは何になりたいか?」ではなく「私たちは何を望みたいか?」ということを考えないといけない。という象徴的な結びになっています。
知的好奇心をあおる本って年に1冊あるかどうかですが、本書はまさしくその1冊でした。本当におススメの1冊です!