元宝塚歌劇団の支配人だった著者の経験に基づいた本。エンターテイメント業界の中で異色の経営をする宝塚歌劇団。
通常の演劇ならば、ロングラン公演や積極的SNS戦略などをとるところ、宝塚はそのような戦略をとらない。
著者によれば、制作から興行、劇場運営も自社でやるという垂直統合システム。そしてチケットの直販を軸にするDtoC戦略が宝塚の特徴ということです。
それらの根本は「男役」という虚構を生み出した作品性に由来しているという。虚構の世界を守るための垂直統合システム。
虚構なので、現実に引き戻すSNSは禁止。グローバル化も図らない。
この虚構を軸に、ファンとともに価値創造を続ける戦略。ファンクラブにチケットを卸すことで成り立つ直販ビジネス。ファンクラブがブランド価値を守っているという。ちなみにファンクラブは外部の団体で、運営にはタッチしないというスタンスであるという。
ある役者が大きくなるのを一緒に見守るという価値共創は、コストダウンにつながる(顧客獲得コストが下がる)。この役者が大きくなるというのは、夏フェスのステージすごろくとも同じで、エンタメ界ではよくあることですね。
最終章で著者はコロナ禍でのエンタメビジネスについて考察されていました。つまりこのコミュニティビジネスをすすめるということ。「閉じたビジネス」で乗り切るという方法です。
本書では言及はありませんでしたが、個人的には「閉じたビジネス」って、宝塚の元が阪急という鉄道会社という「閉じたビジネス」の典型であることに由来しているのではないかと思ってしまいます。
閉じた戦略であるといえます。