『ギリシア人の物語Ⅰ』が、アテネがライジングしていく姿を描いていたのに対して、『Ⅱ』は、最盛期から崩壊を描いています。
前半はテミストクレスの後をついで、アテネの最盛期をつくったペリクレス。都市国家であったアテネの肝は、東地中海、特にエーゲ海から黒海にかけて成立した「デロス同盟」による経済と軍事の繋がりを形成したこと。
ペルシア戦役のあと、ペルシアもスパルタを率いる王もペリクレスと同年代で、相性が良かったというのありました。
ただペリクレスの晩年から始まる「ペロポネス戦役」がアテネを没落に導く。
ペリクレスというリーダーがいなくなったことによって、デマゴーク(扇動家)がたびたび出てくる。
その代表がクレオン。まじでこの人がいなかったら、もう少しましだったのではないかと思えてしまう。
そんな凋落するアテネの救世主ガアルキビアデスであった。彼は名門、ハンサム、そしてソクラテスを師にもち、弁論においては天才的。まさしくリーダーでした。しかしそんなアルキビアデスも、アテネの再起には役立ったが、シチリア遠征の途中で本土召喚に応じなかったということで国際手配人となる。ちなみにこの本土召喚を仕組んだのもクレオンの後継となっているデマゴークたちという。
ここで面白かったのが、アルキビアデスがなんとライバルのスパルタに亡命する。さらに軍事顧問に就任する。さらに王妃を妊娠させてりもしている。さすが稀代の美男子である。
さらにスパルタの後、ペルシアに渡り、ペルシアの地方の政治・軍事顧問に就く。これはまさしくテミストクレスと同じではないか!笑ってしまいます。
その後、東エーゲ海のサモス島に渡り、なんとここでアテネ海軍の指揮をする。
そのころペロポネソス戦役は20年も続いており、アテネはシチリア遠征で大敗をしている。その状況をつかって、アルキビアデスはアテネに返り咲いてします。まぁお見事です。
ただ返り咲いたアルキビアデスもノティオンの海戦で副官が思うように動かず、敗戦。するとまた扇動家がアルキビアデスを失脚させる(その後暗殺される)。
その後、削られていく海軍。お金も人材もどんどん無くなっていく。アイゴスポラモイ海戦で海軍が壊滅に、制海権が失われてその後アテネは兵糧攻めに。最後はアテネの無条件降伏となる。ペリクレスの死から25年で崩壊である。
読んでいると扇動家ってマジでやっかい。
ちなみに今日ならば、政治家だけでなく、マスコミやウェブやSNSなども自覚していようがいまいが関係なく、扇動家となります。
最近のアメリカも日本もみているとこの扇動家が幅を利かせて、実際に当選したりするのをみると民主制の悪い部分が出てくる(信者はさらにそれを信じ、拡散するからなおタチが悪い。N党とかね)。
先が思いやられます。
民主政のリーダーをとは、民衆に自信を持たせることができる人。
一方、アテネが崩壊していったころの衆愚政のリーダーとは、民衆が心の奥底に持っている漠とした将来への不安を、煽るのが実に巧みな人、としている。
本書Ⅱ巻の最後は、こう結ばれています。
ソクラテスの言うとおり、人間にとって最大の敵は、他の誰でもなく、自分自身なのである。アテネ人は、自分たち自身に敗れたのである。言い換えれば自滅したのであった。
民主制の良い部分が機能したのがペリクレスまでのⅠ巻。それ以降が民主制の悪い部分が出まくったのがⅡ巻でした。