割と昔から好んで読んでいる沢木耕太郎。著者の初期の代表作ということで読んでみました。
主人公は、カシアス内藤という元東洋ミドル級王者。挫折したカシアスの再起をかける様子がつづられている。ただ普通のノンフィクションと違う点は、著者自身が体験した物語であるということ。解説ではそれを「私ノンフィクション」と表現していて、ルポであり、私小説でもあるという文体で綴られています。
これは深夜特急にも言えますが、著者の感情、見方が生々しく語られており、通常のルポでは味わえないものとなっています。
著者が若かりしころということで、本書の中で、そのときの心情が吐露されています。
それが自分の真の仕事だとはどうしても思えなかったのだ。人は誰でもそのような思いを抱きつつ、結局はダラダラとその仕事を続けて生きていく。(中略)私は、ジャーナリズムというリングの中でやはり戸惑いながらルポタージュを書いている、四回戦ボーイのようなものだ。
また、若いからできたであろうその行動力には、圧巻です。
オバケといつかは待っている奴の所に来たためしがない。
というフレーズが書かれていたが、中途半端な内藤に最高の時を作り出してあげれないものかと試行錯誤し、東洋チャンピオン戦のマッチメイクを作っていくくだりは、面白くてページを読む手が止まりませんでした。
中途半端だった内藤、最後に得たのは内藤ではないかというエンディングも、これまたその時代、年齢だったからこそ感じた感情だったのかなぁと思ってしまいます。
ボクシングには全く興味がなかったですが、何かをやり遂げるその感情にふれる本書はやっぱり面白かったです。