たまたま手に取って読んでみました。
僕自身、演劇については門外漢なのですが、音楽やら映画やらには興味がありそれに置き換えて読んでみました。
登場する本多一夫氏は、北海道出身で元は役者。新東宝のニューフェイスとして上京。しかし役者としては目が出ず、下北沢で飲食店を始める。
役者たちが贔屓にしてくれたこともあり人気がではじめ、あれよあれよと下北沢界隈を中心に80店舗ほど運営する実業家になる。
ここで本多は、若い劇団が自分たちのやる小屋がないということを聞き、劇場運営を始めることになる。これが聖地ともなる「本多劇場」となる。その後、小規模の「スズナリ」を立ち上げたりと下北沢に8つの劇場を運営することになる。
人生の転機は、実業家として成功していた時に、飲食業から手を引いたこと。個人的にはこの手の引き方がうまかったと思っている。
つまり飲食店を売却をするのだけれども、不動産としては持ち続け、家賃収入は得るという方法をとったということ。
本人のインタビューでも時折でてくるけれども、この安定した不動産収入が本多劇場の出る人には使いやすく、観る人には楽しみやすい劇場の開設につながっていきます。
何かの本に書かれていましたが、「本屋をやりたいのであればビルを1棟買いなさい」。という話があります。つまり本屋では儲けがでないので、家賃のかからない自分のビルで、家賃を得ながらやりなさいということ。
古く、ギリシャ時代やルネッサンスから芸術はパトロンがいて成り立つものでした。文化ってやっぱりお金があって、その上で成り立つものなのだと思うのですよね。
ただ本多さんが普通の不動産屋と違ったのはエンターテインメントの精神を持っていること。またプロデューサーの感覚があったということでしょう。本書では幼少期よりその片鱗を見ることができたと書かれています。
俳優の失敗が、演劇の振興につながるなんて、人間万事塞翁が馬ですね。