Life is a showtime

やりたい事とか日記とかをつれづれなるままに……

(読書)街の人生/岸政彦~5人の人生の語り聞き

ここ1年ぐらい読んでいる岸政彦さんの本になります。昨年、「東京の生活史」を出版されましたが、その原型ともなるのが本書になります。

 

5人の方へのインタビューをそのまま収録した一冊。ただ出てくるのが、外国籍のゲイ、ニューハーフ、摂食障害、シングルマザーの風俗嬢、ホームレスたちの「普通の人生」という5人。

なかなかな方々です。

 

本書の特徴は、あくまでも会話文のままの収録、そして著者の意見が書かれておらず、著者にすべてをゆだねているという点。

 

色々な人生。みんないろんなものを抱えて生きているんだなぁと。

 

 

(読書)宝塚歌劇団の経営学/森下信雄~100年続く宝塚歌劇団の秘密を探る本

宝塚歌劇団の支配人だった著者の経験に基づいた本。エンターテイメント業界の中で異色の経営をする宝塚歌劇団

通常の演劇ならば、ロングラン公演や積極的SNS戦略などをとるところ、宝塚はそのような戦略をとらない。

 

著者によれば、制作から興行、劇場運営も自社でやるという垂直統合システム。そしてチケットの直販を軸にするDtoC戦略が宝塚の特徴ということです。

 

それらの根本は「男役」という虚構を生み出した作品性に由来しているという。虚構の世界を守るための垂直統合システム。

虚構なので、現実に引き戻すSNSは禁止。グローバル化も図らない。

この虚構を軸に、ファンとともに価値創造を続ける戦略。ファンクラブにチケットを卸すことで成り立つ直販ビジネス。ファンクラブがブランド価値を守っているという。ちなみにファンクラブは外部の団体で、運営にはタッチしないというスタンスであるという。

 

ある役者が大きくなるのを一緒に見守るという価値共創は、コストダウンにつながる(顧客獲得コストが下がる)。この役者が大きくなるというのは、夏フェスのステージすごろくとも同じで、エンタメ界ではよくあることですね。

 

最終章で著者はコロナ禍でのエンタメビジネスについて考察されていました。つまりこのコミュニティビジネスをすすめるということ。「閉じたビジネス」で乗り切るという方法です。

 

本書では言及はありませんでしたが、個人的には「閉じたビジネス」って、宝塚の元が阪急という鉄道会社という「閉じたビジネス」の典型であることに由来しているのではないかと思ってしまいます。

 

閉じた戦略であるといえます。

 

 

 

やっぱりエモ免疫ができているのかぁ…エモ映画『ちょっと思い出しただけ』を観てきた。

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★★★

昨年の『花束みたいな恋をした』以降続く、エモい映画。昔の恋愛を思い出す、心の奥底がキュンと痛くなります。

僕が観たものだけでも『ボクたちはみんな大人になれなかった』『明け方の若者たち』と1年で3本も観ています。それ以外でも『街の上で』も同種の映画といえるのではないでしょうか。

 

さて本作ですが、監督もオフィシャルサイトで述べているように「花束みたい」とかいわれるんだろうなぁと書かれています。

個人的には花束よりも『ボクたちはみんな大人になれなかった』を意識せざるおえませんでした。

 

共通点としては、ともにヒロインを伊藤沙莉が演じる。思い出の中の彼女は、みんな伊藤沙莉。個性的だから思い出に残るのでしょうか。なんといっても声がね。

そして共に現在から過去に振り返っていくというスタイルをとっているという点。このスタイルをとる一番のメリットは、終盤が一番、恋愛のスタートという一番燃え上がる部分を置くことができるということ。

観客は結末を知っている。そして最後にまた結末に戻る。

両作品はコロナ禍という現在につながる映画でした。『ボクたち~』が1995年までさかのぼるのに対し、『ちょっと思い出しただけ』は6年間の恋愛を思い出すという時間の長さの差があります。

個人的には、40歳を超える僕にとっては『ボクたち~』がよりリアルタイム感があり、当事者感がありました。もし僕が30歳だったのであれば『ちょっと~』の方が感情移入できていたのかもしれません。

 

もうひとつ『明け方の若者たち』との比較も考えてみます。

共通するのは、音楽が重要な要素で登場すること。『明け方の若者たち』はマカロニえんぴつのPVかと思うぐらいな場面で音楽がかかります。残念ながらMVだったらいいのかもしれませんが、映画と楽曲となると印象的には通ずるものがある程度でした。

一方、『ちょっと思い出しただけ』ではクリープハイプが登場します。さらにボーカルである尾崎世界観もそれなりの役として登場しており、軸が通った演出となっていました。

本作の最後は、ベランダから観る夜明けで終わります。夜明け。つまりこれからは明るいものであるという予感させるエンディングであるとともに、マジックアワーの終わりを意図するものだったという演出だったのではないでしょうか。

 

彼女のこれからに幸あれ。

 

choiomo.com

 

喪失と再生、死が内在する生、村上春樹が常々テーマにする要素が多分に含まれた作品~映画「ドライブ・マイ・カー」

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★★★★

遅ればせながら『ドライブ・マイ・カー』を観てきました。

小学校5年生の時に『ノルウェイの森』を読んで以来の村上春樹好きとしては、素晴らしく村上春樹ワールドを体現してくれた作品でした。

 

村上春樹が多くの小説の中でたびたびテーマとして取り上げてきた、主人公が喪失。本作では妻の喪失。そしてその喪失を埋めるための再生への工程(本作は、ほとんどがこの時間になる)。

 

そして、『ノルウェイの森』をはじめ、多くの作品のテーマに登場する、死を内在する生。

死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。

これは『ノルウェイの森』で堂々と太字でかかれていた文です。

どう喪失と向き合うか、そしてそれを受け入れて生きていくか。トンネルから抜け出すか。その過程が描かれた3時間でした。

 

まさしく村上ワールド全開です。

 

濱口竜介監督の独特の平坦な会話劇、少し音がずれて早めに入るシーン展開の多用などもボディブローのように、映画の世界観を作っています。演劇が詳しければより楽しめる作品でしょう。

 

会話劇として、印象的だったのは、「だから人は仕事をするのです」というような意味のフレーズがありました。喪失を忘れるために人は淡々と仕事をする。

 

そう明日に向かって仕事をするのです。

 

dmc.bitters.co.jp

環境をめぐる大きな利権~グリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす/森川 潤

SDGsが叫ばれるようになって、急速に動き出した脱炭素。その動きを網羅的に書かれている1冊になります。

これを読むと、「環境」という大義名分を切り口にした大きな資本主義の流れということがわかります。地球温暖化が問題なのは事実なのですが、それに資本主義が加わることで、その対策が加速することになりました。

 

「お金」が絡むことなので、日本人にとってはヤラシイと感じる人も多いと思います。しかし、お金が絡むことで、儲かるなら皆が取り組むようになるというものも一面としてあります。

いくらイヤらしいと感じても、結果だけを考えれれば、多くの人が温暖化対策に関わるということは、良いことです。

 

本書を読むことで、欧米は一歩も二歩も先を行き、自分たちのいいようにルールを変え、それを世界標準としようとしています。中国もその流れを汲み、いち早く取り組んでいます。

結果日本は大きく出遅れている事実に気づかされます(いつものことですが)。個人的には、蓄電技術こそがエネルギー革命だと思っています。リチウム電池にかわり全固体電池の普及が待たれます。

 

 

 

理系的思考でアプローチする自己啓発本〜ビジネスと人生の「見え方」が一変する 生命科学的思考/高橋祥子

 

東京大学で遺伝子解析の研究をし、バイオベンチャーを立ち上げた著者によるビジネス本。根本的に理系的思考があることで通常の自己啓発本とは一味違った切り口になっています。多くの自己啓発本が科学的思考が欠落しているのに対して、ある一定の著者の考え方が示されています。

 

例えば、情熱の源泉について。

プロジェクトの初動に大事な情熱についてですが、著者は下記のように定義しています。

 

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この図解が言いたいのは、行動した時と行動しなかった時の未来の差分と初動の大きさを積分した部分を情熱の源泉と規定するというもの。おぉ、なるほど。今自分が動いたことで変わる世界、そして初速の行動量が情熱というわけかと腑に落ちました。

 

また時間の認識についても説明がありました。

時間には、

  1. 自然変化…物理的なもの
  2. 環境変化…社会的なもの
  3. 行動変化…個人的な活動
  4. 生命変化…個人の生命的な変化(加齢など)

という4つの認識軸がある。時間の認識とはこれらのうち「2つ以上の異なる性質を持つ変化」の比較という相対的なものであるとしています。具体例としては、スマホをみてあっという間の1時間と、好きな人と話す1時間は違うということです。つまりスマホの1時間は、行動変化や物理変化が少なく、好きな人との1時間は行動変化が大きいことに由来します。これによって時間の認識が大きく変わります。

 

こうした理系的視点が数多く示されますが、結論としては多くの自己啓発本がいうことと共通することが多いです。

  • 広い視野を持つ(空間的視野/時間的視野)
  • 客観的視点と主観的視点の両方を持つ(右手にソロバン、左手にロマン)
  • 不確実な世の中だからこそ多様性(性別、国籍、年齢といったでもグラフィックなものではなく、タレントの多様性が大事)
  • 時間軸をいくつか持つ(議論が噛み合っていない時は、時間軸合っていない場合が多い)

と言ったようなことが書かれていました。

 

あとがきで著者は、

変革をどのように受け入れ、どのような未来を思い描き、どう前に進むか、それこそが「思考」であり、人類の唯一の希望である

と記しています。生命原則的に、人類は種を残してきました。

その過程には様々なチャレンジがあり、結果環境に適したものが残ってきています。環境を変えるのは大変ですが、適したものが生き残ってきたと考えるのが正解なのでしょう。

 

 

 

感情移入できるブラック企業対峙小説~風は西から/村山 由佳

”タミオは広島のタカラだ”

 

本書のタイトルは、奥田民生の名曲「風は西から」から取られている。全くあらすじを知らずに、爽やかは恋愛小説だろうと思って読み始めました。冒頭は本当に絵にかいたような爽やかな20代の恋愛小説でした。

それが途中から彼が務める居酒屋チェーン『山背』がブラック企業であることがわかり、その後の闘争劇となていく。

 

こう書くと企業小説な雰囲気でしが、女性作家らしく、あくまでも爽やかなタッチで描かれる。なので読みやすく、そして被害者に感情移入できる。企業の体質に、読んでいて腹が立ってきます。

 

本書の居酒屋チェーンのモデルは当然、「和民」です。参考文献にも書かれています。最近はあまりにイメージが悪くなったので、「鳥メロ」という名前に変えたりして営業しています。

 

ブラック企業の根本は、創業者って自分にもできたのだから、お前たちもできるだろう、という気質があるからでしょう。

そして若者のやりがい搾取ともとれる企業体質。逃げるのも手です。だけど人間って現状維持バイアスが働くので、なかなか逃げることもできないのですよね。

ちなみに、最近のワタミですが、結局変わっていないみたいです。

「ホワイト企業」宣伝のワタミで月175時間の残業 残業代未払いで労基署から是正勧告(今野晴貴) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

タイトルから読んでみた小説ですが、思いのほか面白かったです。

 


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