★★★
昨年の『花束みたいな恋をした』以降続く、エモい映画。昔の恋愛を思い出す、心の奥底がキュンと痛くなります。
僕が観たものだけでも『ボクたちはみんな大人になれなかった』『明け方の若者たち』と1年で3本も観ています。それ以外でも『街の上で』も同種の映画といえるのではないでしょうか。
さて本作ですが、監督もオフィシャルサイトで述べているように「花束みたい」とかいわれるんだろうなぁと書かれています。
個人的には花束よりも『ボクたちはみんな大人になれなかった』を意識せざるおえませんでした。
共通点としては、ともにヒロインを伊藤沙莉が演じる。思い出の中の彼女は、みんな伊藤沙莉。個性的だから思い出に残るのでしょうか。なんといっても声がね。
そして共に現在から過去に振り返っていくというスタイルをとっているという点。このスタイルをとる一番のメリットは、終盤が一番、恋愛のスタートという一番燃え上がる部分を置くことができるということ。
観客は結末を知っている。そして最後にまた結末に戻る。
両作品はコロナ禍という現在につながる映画でした。『ボクたち~』が1995年までさかのぼるのに対し、『ちょっと思い出しただけ』は6年間の恋愛を思い出すという時間の長さの差があります。
個人的には、40歳を超える僕にとっては『ボクたち~』がよりリアルタイム感があり、当事者感がありました。もし僕が30歳だったのであれば『ちょっと~』の方が感情移入できていたのかもしれません。
もうひとつ『明け方の若者たち』との比較も考えてみます。
共通するのは、音楽が重要な要素で登場すること。『明け方の若者たち』はマカロニえんぴつのPVかと思うぐらいな場面で音楽がかかります。残念ながらMVだったらいいのかもしれませんが、映画と楽曲となると印象的には通ずるものがある程度でした。
一方、『ちょっと思い出しただけ』ではクリープハイプが登場します。さらにボーカルである尾崎世界観もそれなりの役として登場しており、軸が通った演出となっていました。
本作の最後は、ベランダから観る夜明けで終わります。夜明け。つまりこれからは明るいものであるという予感させるエンディングであるとともに、マジックアワーの終わりを意図するものだったという演出だったのではないでしょうか。
彼女のこれからに幸あれ。