塩野七生によるエッセイ集。
94年と20年以上前の本になりますが、今でもしっかりと読むことができます。それは「歴史」を扱っているからなのでしょう。それも「イタリア」という人類史上、もっとも繁栄を誇った文明が題材となっています。
本書は、ヴェネツィアのゴンドラはなぜ黒いのかということから始まり、ローマ、コンスタンティノープルといった題材の別の側面を取り上げています。
印象的なお話しをいくつか記しておきます。
どの文明でも経済的盛期がまず到来し、それが衰退しはじめると文化が花咲かせる
これには2つの側面があると思います。一つは文化・芸術にはお金がかかる。すくなくとも社会的余裕がないとこれらを支えることはできないということ。
もうひとつは、文化・芸術は一朝一夕にはできないので、それなりにその支える期間をもった国でしか花咲かないということ。
そして経済的に衰退する期には、それしか誇れることがなくなってくるということです。あれ?今の日本ってそうじゃね。みんな本当は知っていますよね。
ヴェネチアの出版人、アルドの話。低価格で多くの人に書物を行き渡されるようにするビジネスを興す。イタリックの発明により、書物の小型化を図る。
また他者の出版物まで列記するなど、書物の振興を図った。
その葬儀には、花ではなく、彼が出版した書物が棺を飾っていた。
なんと素晴らしいのでしょう。彼がすごかったのは、ビジネスの才覚もあったということ。人口的には、拠点をフィレンツェでも良かったのでしょうが、ヴェネチアに置いたこと。これが商人がもつ流通網も持つこととなったわけです。
ヴェネチアの煙草について。専売権を貸し、収益のマージンで稼ぐ。
こちらの方が、国営よりよほど効率的なことを知っていた。これまたどこかの国に見習ってもらいたいです。
94年の作品ということで、「海の都の物語」のもととなるヴェネチアの話が多めです。
読んでいて教養とはこういうことを言うのだと思います。知識だけでなく、それを現代に置き換えたり、他のケースに当てはめたりすることができることの重要性を感じます。
こういうことができる人っていうのは尊敬しますね。