元朝日新聞の記者が定年後、バルセロナで豆腐店を開業した。修行の日々、異国での苦労、新しい出会いと交流、ヨーロッパから見えた日本の姿──ジャーナリストならではの洞察力で、「蛮勇」のカミさんと二人三脚の日々を綴った小気味よいエッセイ。一身にして二生を経る──人生後半の新たな挑戦をめざす全てのひとに贈ります。
40代も半ばを迎えて、最近老後に関する本を手に取ることが増えました。そんな中で読んだ1冊。
定年退職後にバルセロナで豆腐屋を開業するという第二の人生本かと思いきや、まさかの純愛に帰結するという、なんとも嬉しくなるような1冊でした。
もちろん豆腐屋の開業のドタバタや苦労話などが面白く、そして読みやすく書かれています。失敗(事業継承)の部分も書かれているあたりも好感が持てます。このあたりはさすが元新聞記者です。わかりやすく伝えられています。
しかし本作の一番は、やはり最後の妻との関係について書かれた章でしょう。
結婚する時に、妻について義理の父から言われた「美知子は生きることに蛮勇を振るうことができる子です」という言葉通りの人生をおくることになる。
この章には、連れ添った妻の思い出が詰まっており(そしてそれほど長くもないが密度がある)、涙さえでてきます。
「創業者(ファウンダー)は事業が続くかぎり、名前が残るのです」と事業継承をした会社に言われたということが最後に書かれています。
「バルセロナでの十年は私の宝よ」という妻の言葉とともに、生身の人間が得ることができない「いのち」を手にしたかもしれないという、締めの言葉が染み入る1冊でした。
